独身の人(おひとりさま)が亡くなった場合の遺産相続
- 独身で親族がすでに亡くなり、もしものときに頼れる人がいない
- 結婚はしたが財産を継がせる子どもがいない
- 同世代のきょうだいや親族に財産を託すのは不安
- 親族と離れて暮らしていて、長年疎遠になっている
- 遠方に暮らしている親族には負担をかけられない
死後どのようなことをしなければならないのか?
ある日突然ご家族が亡くなってしまったとき、残されたご家族は身内を喪った深い哀しみや心理的負担を抱えておられますが、そのうえに膨大な量の「死後事務」の対応という負担がのしかかります。
例えば、死亡届や火葬・埋葬許可申請、各種年金手続などの行政へ提出する書類の用意、火葬場・埋葬などの手配、送付すべき人々を熟慮した上での友人知人への訃報の連絡、遺品整理に賃借住居の明渡し、クレジットカード・電気・ガス・水道・電話等の各種サービスの解約と支払いなどが必要になってきます。
これだけみても、相当な事務負担になることをおわかりいただけると思います。これが周りに頼れる親族がいない「おひとりさま」であれば、ご自身の死後、誰にこのような事務の処理を託せば良いのでしょうか。何も対策をしなければ、ほとんど付き合いのない親族等がこれらの事務の処理をすることになり、周りの方々に迷惑をかけることになってしまいます。
死後事務委任契約とは
委任者(本人)が、受任者(自分以外の第三者)に対し、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務手続等についての代理権を付与して、ご自身の死後の事務を委託する契約のことを「死後事務委任契約」といいます。
委任契約というのは、原則として、委任者の死亡によって終了します。
しかし、委任契約の当事者である委任者と受任者の契約で、「委任者の死亡によっても委任契約を終了させない」という合意を行うこともできます。
この合意を行うことで、ご自身の死後も、受任者が死後事務委任契約に記載された事務を短期的に行うことができるようになります。
死後事務委任契約で注意すべきことは、あくまで「事務手続の委任である」ということです。
「相続財産をAに相続させる」といった内容は、事務手続の委任ではなく法律行為であるため、「遺言書」に記載しなくてはなりません。遺言で葬儀や法要のやり方を指定する方もいらっしゃいますが、逆に遺言には、事務手続に関する法的強制力はありません。また、現実問題として、葬儀等が終わって一段落した後に遺言の内容を確認するということも多いですが、そうすると遺言に記載していても、誰も内容を認識しないまま葬儀等が終わってしまうということもあり得ます。
葬儀のやり方を具体的に指定したり、散骨等を埋葬の方式として指定したりする場合には、実際に葬送を行うことになる人々との話し合いや準備をしておくことが重要です。
老後の身上監護と財産管理を万全なものとしたうえで、死後の相続、相続財産の管理又は処分及び祭祀の承継に関する紛争を生じないようにするためにも、死後事務委任契約で円滑に手続できるようにしておくことは有効だと言われています。
死後の事務が確実に行われるようにするために、遺言で祭祀の主宰者を指定し、また遺言で遺言執行者を指定して、さらに死後事務委任の内容をその遺言執行者に就任してくれる方との死後事務委任契約で取り決めておく方法も考えられます。
遺言作成について>> 遺言執行について>>契約内容の注意点
死後の手続については、費用の負担を誰がするのかなどを明確にしておく必要があります。
任意後見人・成年後見人等は、ご本人が死亡した時点でその職務が終了しますし、見守り契約(※)のみの場合では、死後の事務を行うための費用を支出する権限がなく、葬儀費用等の支払いを行うことができなくなります。
※見守り契約とは、任意後見契約が生じるまでの間、定期的な訪問や面談等によって、ご本人の心身の健康状態を把握して見守るためのものです。任意後見契約を開始する時期を見極めるためにも役立ちます。
なお、遺言であれば、祭祀の主宰者に、「遺言者の葬儀費用に充てるために、金○○円を預託してあり、それを使用して下さい」と指定することも可能です。
- 委任者(ご自身)の生前に発生した債務の弁済
- 委任者(ご自身)の死後の葬儀、埋葬又は永代供養に関する債務の弁済
- 賃借建物の明渡し、敷金又は入居一時金等の受領
- 親族関係者への連絡
- 水道光熱費の解約及び役所への届出等に関する事務
- 家財道具や生活用品の処分に関する事務
お亡くなりになられた直後の手続などは葬儀社のプランに組み込まれている部分もありますので、死後事務委任として委託する事務については、個々人の状況に応じて、契約で取り決めておくのが望ましいでしょう。