遺産を独り占めしようとする相続人がいるときの対処法
遺産相続の際、相続人の一人が遺産を独り占めしようとして、トラブルになることも少なくありません。
このような場合には、法律上のルールに則って話し合うことが重要ですが、話し合いで解決できない場合には家庭裁判所での手続きを要することもあります。
今回は、遺産を独り占めしようとする相続人がいるときの対処法について、わかりやすく解説します。
Contents
遺産の独り占めは原則としてできません
結論から申しますと、遺産を独り占めすることは原則としてできません。まずは、相続に関する法律上のルールを確認しておきましょう。
遺産分割の基本ルール
身内の方が亡くなられた場合に、誰がどのような割合で遺産を取得するかについては、民法で原則が定められています。
誰が相続人となるかについてのルールは、以下のとおりです。
・常に相続人となる:配偶者
・第1順位:子(既に亡くなっている場合は孫)
・第2順位:直系尊属(父母。既に亡くなっている場合は祖父母)
・第3順位:兄弟姉妹(既に亡くなっている場合は甥・姪)
これらの相続人のことを法定相続人といいます。第2順位の人は第1順位の法定相続人がいない場合に相続人となり、第3順位の人は第1順位の法定相続人も第2順位の法定相続人もいない場合に相続人となります。
相続割合についての原則は、以下のとおりです。
・配偶者と子が相続する場合…配偶者1/2、子1/2(子が複数いる場合は均等に分ける)
・配偶者と直系尊属が相続する場合…配偶者2/3、直系尊属1/3(直系尊属が複数いる場合は均等に分ける)
・配偶者と兄弟姉妹が相続する場合…配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数いる場合は均等に分ける)
このように民法で定められた相続割合のことを法定相続分といいます。配偶者や長男であっても、遺産の独り占めは認められません。法定相続人が複数いる場合は、それぞれ、法定相続分に従って遺産を取得する権利が認められているのです。
例外的に遺産を独り占めできるケース
例外的に特定の相続人が遺産を独り占めできるケースとして、相続人全員の合意がある場合と、1人を残して他の相続人全員が相続放棄をした場合とが挙げられます。
法定相続分は強制的なルールではなく、相続人全員の合意があれば自由に相続割合を決めることが可能です。したがって、相続人全員が納得して合意すれば、特定の相続人に遺産を集中させることもできます。
また、被相続人(亡くなった方)の事業を引き継ぐ相続人がいる場合などには、他の相続人全員が相続放棄をすることにより、その後継者に遺産を集中させることもあります。
なお、「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言書がある場合、長男が遺産を独り占めできると考えられがちですが、そうではありません。この点について、引き続き解説します。
遺言書に従って遺産の独り占めを主張されたときの対処法
特定の相続人にすべての遺産を相続させるという内容の遺言書がある場合でも、以下の対処法により、遺産の独り占めを阻止することが可能です。
遺言書が無効でないか確認する
まずは、遺言書が有効か無効かを確認する必要があります。
遺言書を有効なものとするためには、法律上の細かなルールが守られていなければなりません。特に自筆証書遺言では、要式の不備や曖昧な記載があることにより、無効となることも多いです。
自筆証書遺言でも公正証書遺言でも、被相続人が高齢となり、認知症などで判断能力が低下した後に作成されたものであれば、遺言能力が否定されることにより、遺言書が無効となる可能性があります。
遺言書の有効性をめぐって意見が対立した場合は、遺言無効確認請求調停や訴訟で解決を図ることになります。
遺言書が無効な場合は遺産分割の基本ルールに従う
遺言書が無効であることが確認できた場合は、遺言書がないものとして遺産分割を行います。
つまり、法定相続分に従って遺産を分割するのが原則となります。
遺言書が有効な場合は遺留分侵害額請求をする
遺言書が有効な場合でも、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分があるため、遺産の独り占めを阻止できる可能性があります。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された最低限の相続分のことです。具体的には、以下の相続割合が遺留分として保障されています。
・直系尊属のみが相続人である場合…法定相続分の1/3
・その他の場合…法定相続分の1/2
遺留分を侵害する遺言書がある場合は、遺産を取得した相続人に対して、侵害された金額の支払いを請求できます。この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます。
例えば、親が総額6,000万円の遺産を残して亡くなり、長男・二男・長女が相続するケースで、「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言書がある場合、二男と長女はそれぞれ、1,000万円(遺産6,000万円×法定相続分1/3×遺留分割合1/2)の遺留分を侵害されています。
したがって、二男と長女はそれぞれ、長男に対して1,000万円の支払いを請求できるのです。
遺言書はないが遺産を独り占めしようとする相続人がいるときの対処法
遺言書がない場合は、以下の流れで遺産の分割割合を決めます。
遺産分割協議
まずは、相続人同士で話し合います。遺産の分け方について相続人同士が話し合うことを「遺産分割協議」といいます。
遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合は、遺産分割協議において、公平に遺産を分けるように説得することになるでしょう。
なお、遺産分割協議は相続人全員が参加し、合意しなければ成立しません。逆にいえば、特定の相続人が独断で遺産を独り占めすることはできないのです。
相続人全員の合意が得られた場合は、その内容を記載した遺産分割協議書を作成した上で、実際に遺産を分けます。
遺産分割調停
遺産分割協議が成立しなかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることが必要です。
調停では、中立・公平な調停委員を介して相続人が話し合い、合意による解決を目指します。話し合いの手続きですので、証拠は必須ではありません。しかし、話し合いを有利に進めるためには証拠も重要です。
もっとも、遺産を独り占めしようとする相続人がどのような主張をするかによって、こちらが行うべき反論や、提出すべき証拠の内容は異なってきます。
調停で話し合いがまとまれば、合意した内容が記載された調停証書が作成され、その内容に従って遺産を分けることになります。
遺産分割審判
話し合いがまとまらなかった場合には調停不成立となり、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。
審判では、各相続人が提出した主張や証拠の内容を総合的に考慮して、家庭裁判所が遺産の分割方法を定めます。そのため、審判への移行が決定したら、改めて法的な主張をまとめた書面や、証拠が不足している場合には補充の証拠を提出することが重要なポイントとなります。
審判が下った後、2週間以内に即時抗告の申し立てがなければ審判が確定し、その内容に従って遺産を分けます。
寄与分や特別受益を主張されたときの対処法
遺産を独り占めしようとする相続人は、その理由として寄与分や特別受益を主張することがあります。その場合の対処法は、以下のとおりです。
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人が、その貢献の度合いに応じて、法定相続分よりも多くの遺産を取得できる制度のことです。
例えば、被相続人と長年同居して看護や介護に努めてきた相続人や、被相続人と一緒に家業を運営してきた相続人などには、寄与分が認められる可能性があります。ただし、寄与分が認められたとしても、遺産の独り占めまでが認められるケースはほとんどありません。
寄与分を主張された場合には、その相続人の貢献度合いを客観的かつ公平に評価することがポイントとなります。
また、寄与分が認められる相続人には、次にご説明する特別受益も認められ、結果としてプラスマイナスゼロとなり、法定相続分に従って遺産分割をすべきケースも少なくありません。
特別受益とは
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前に贈与や特別な援助として受け取った利益のことです。
遺産分割の際には、特別受益に相当する金額を遺産に持ち戻した上で、その総額を法定相続分で分割します。そのため、特別受益を受けていた相続人の取り分は法定相続分よりも少なくなります。
遺産を独り占めしようとする相続人が、「他の相続人はみんな生前贈与を受けていたから、残った遺産は全部、自分のものだ」と主張することも考えられます。
このような場合には、特別受益として具体的にいくらの利益を得たのかを、客観的かつ公正に評価することが重要なポイントとなります。
遺産相続のトラブルは弁護士へご相談を
遺産を独り占めしようとする相続人がいる場合の対処法をひと通り解説してきましたが、適切に対処するためには、専門的な法律の知識や経験を要することがほとんどです。
十分な知識がないまま相続人同士が対立していると、話し合いが平行線のまま時間だけが過ぎることにもなりかねません。
弁護士に相談すれば、適正な相続割合を判断してもらえますし、相手方との交渉や調停、審判などの手続きは弁護士に依頼して一任することも可能です。
公平な遺産分割を実現するためにも、遺産相続のトラブルは当事務所へご相談ください。
この記事の執筆者
- 弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
-
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
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