連絡を無視・拒否する非協力的な相続人がいるときの相続手続き

身内の方が亡くなり、遺産分割協議をしようとしても、連絡を無視・拒否する相続人がいるケースが珍しくありません。

連絡がつかない相続人がいると、原則として遺産分割をすることができないため、困ってしまうでしょう。

今回は、連絡を無視・拒否するなどして非協力的な相続人がいる場合の相続手続きの進め方について、わかりやすく解説します。

連絡を無視・拒否する相続人がいると遺産分割ができない理由

遺産分割協議は、相続人全員が参加して行う必要があります。もし、1人でも除外して遺産分割協議を行えば、遺産分割協議書を作成したとしても無効となります。

その理由は、相続人の範囲と各相続人の相続割合が法律で定められているからです。

相続人になる人として民法で定められた人のことを、「法定相続人」といいます。配偶者、子、父母、兄弟姉妹などが法定相続人にあたります。

民法で定められた各相続人の相続割合のことを「法定相続分」といいますが、具体的な相続割合は、誰が相続人となるかによって異なります。

そして、法定相続分は本人の同意がない限り、原則として奪うことができません。そのため、相続人全員が参加しなければ遺産分割協議は成立しないのです。

ただし、不動産について法定相続分どおりに相続登記をする場合と、遺言書で遺産分割の方法が指定されている場合には、連絡がつかない相続人がいても、そのまま相続手続きを進めることができます。

連絡を無視・拒否する相続人がいる理由

一部の相続人が連絡を無視・拒否する主な理由として、次のようなものが挙げられます。

・提案された遺産分割の内容に納得できずに返答を拒否している
・親族間の仲が悪く、接触したくないと考えている
・被相続人(亡くなった方)に借金癖があったため、相続したくないと考えている
・面倒なことに関わりたくないと考えている
・高齢や認知症などで手紙の内容を理解できず、放置している
・入院中などで、自宅に届いた手紙を見ていない
・特殊詐欺と勘違いして無視している
・行方不明となっている

この他にもさまざまな理由があるかもしれませんが、いずれにしても、実際の理由は相手本人から聞かなければわからないこともあるでしょう。

非協力的な相続人と連絡をとる方法

連絡方法を工夫すれば、非協力的な相続人と話し合い、相続手続きを進められる可能性があります。

まずは、以下の方法を試してみましょう。

戸籍の附票を取得する

そもそも連絡先が不明の相続人がいる場合は、その人の戸籍の附票を取得しましょう。

戸籍の附票とは、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴を記録したものです。これを取得することで、相手の現住所が判明します。その住所に宛てて、まずは手紙を送付するとよいでしょう。

なお、他人の戸籍の附票は原則として取得できませんが、所在不明の相続人がいる場合など正当な理由がある場合は、他の相続人の戸籍の附票を取得できます。

相続手続きを進めるためには、最低限、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本や改正原戸籍謄本も含みます。)を取得する必要があり、大量の戸籍謄本類を取得しなければならないケースも多いです。

これらの戸籍謄本類や、所在がわからない相続人の戸籍の附票などは、弁護士に依頼して取得してもらうこともできます。

弁護士を通じて連絡する

相続人同士の電話や手紙による連絡を無視・拒否する人でも、弁護士からの連絡には応じることも多いです。

特に、弁護士名義で郵便を送付すると、受け取った相手が事の重大さを認識して連絡してくることもよくあります。

なお、弁護士に依頼すれば、他の相続人との連絡や交渉を代理してもらうことが可能です。弁護士が間に入って冷静かつ適切に対応することで、相手が連絡を無視・拒否する理由を話してもらえることも少なくありません。

理由を把握することで、今後の対処法も検討しやすくなるでしょう。

どうしても連絡がとれない相続人がいるときの対処法

どうしても連絡がとれない相続人がいる場合には、以下の方法で相続手続きを進めることになります。

遺産分割調停を申し立てる

相手の所在が判明している場合は、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることが有効です。

遺産分割調停は、家庭裁判所で調停委員会を介して当事者が話し合い、相続人全員の合意による解決を目指す手続きです。

あくまでも相続人全員の参加が必要ですが、裁判所から相手に対して呼出状が送付されることや、お互いに顔を合わせて話し合う必要はないことなどから、相手の出頭が期待できます。

調停で合意できなかった場合や、相手が頑なに出頭を拒んで話し合いができない場合は、調停不成立となり、自動的に遺産分割審判の手続きに移行します。

遺産分割審判では、当事者が提出した書面(主張をまとめたもの)や証拠に基づき、相当な遺産分割の方法を裁判所が決定します。

審判が確定すれば、連絡がとれない相続人との合意がなくても、その内容に従って相続手続きを進めることが可能です。

なお、調停を経ずにいきなり審判を申し立てたとしても、家庭裁判所の職権でいったんは調停に付されることになりますので、まずは調停を申し立てることになります。

失踪宣告を申し立てる

行方不明の相続人がいる場合は、失踪宣告の申立てをするのもひとつの手段です。

失踪宣告とは、行方不明者の生死が明らかでない状態が以下の期間にわたって続いた場合に、その人が死亡したものとみなすための、家庭裁判所の手続きのことです。

・原則として7年間
・戦争や震災など生死に関わる危難に遭遇した人については、その危難が去ったときから1年間

失踪宣告を受けた人は法律上、死亡したことになるため、他の相続人は相続手続きを進めることができるようになります。

ただし、戦争や震災などの重大な危難がなければ、失踪宣告を受けるまでに最低でも7年の期間を要します。そのため、多くの場合は、次の不在者財産管理人の申立てを行う方が現実的な対処法となるでしょう。

不在者財産管理人の選任を申し立てる

不在者財産管理人とは、行方不明となった人の財産を適切に管理する職務を行う人として、家庭裁判所が選任した人のことです。

家庭裁判所は、利害関係者からの申立てに基づき、利害関係のない第三者を不在者財産管理人に選任します。相続人ではない親族が選任されることもありますが、弁護士・司法書士など法律の専門家が選任されることも多いです。

不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得れば、不在者に代わって遺産分割協議に参加することも認められます。こうすることで、連絡がとれない相続人の行方が不明なままでも、遺産分割をすることが可能となります。

ただし、遺産分割の内容が不在者にとって一方的に不利なものであれば、家庭裁判所の許可が得られない可能性があることに注意が必要です。したがって、不在者財産管理人を選任して遺産分割協議を進める場合には、なるべく公平な遺産分割を心がける必要があるでしょう。

相続のトラブルの予防には遺言書の作成が有効

被相続人が遺言書で遺産分割の方法を指定していれば、法定相続人や法定相続分よりも、遺言書の内容が優先されます。遺言書の内容どおりに遺産を分割する場合には、他の相続人の同意は不要なので、連絡を無視・拒否する相続人に協力を求める必要もありません。

したがって、親族間で仲の悪い人がいたり、認知症や行方不明者がいたりする場合には、万が一のときに備えて遺言書を作成しておくのがおすすめです。

ただし、遺言者本人が本文を手書きする自筆証書遺言は、要式の不備や曖昧な記載などにより、無効となるケースが多いことに注意する必要があります。

また、著しく不公平な内容の遺言書を遺せば、それが元で相続トラブルを招くことにもなりかねません。

有効かつ適切な内容の遺言書を作成するためには、弁護士へのご相談をおすすめします。

遺産相続のトラブルは弁護士へご相談を

相続手続きの中には、相続放棄や不動産の相続登記、相続税の申告・納付など、期限が定められているものもあります。一部の相続人と連絡がとれないまま時間が過ぎてしまうと、大きなデメリットを負うことにもなりかねません。

そのため、非協力的な相続人がいる場合には、状況に応じて最適な対処法を選択した上で、速やかに手続きを進めることが重要となります。

どうすればよいのかが分からない場合は、一人で抱え込まず、弁護士へご相談ください。専門的なアドバイスを受けることで、解決への道筋が見えることでしょう。

当事務所では、500件以上の相続問題を解決に導いてきた実績に基づき、さまざまな相続問題の解決を親身にサポートいたします。

連絡を無視・拒否する非協力的な相続人がいる場合など、遺産相続のトラブルでお悩みの際は、当事務所へお気軽にご相談ください。

 

この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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