相続人が海外に?貸金庫を開けてみると…

貸金庫とは

事案によっては、貸金庫の中身が問題になったことがいくつかありました。

貸金庫とは、金融機関が貸金庫内の空間を利用者に貸すという賃貸借契約であるとされていますが、金融機関によって、色々な種類があるようです。

私がこれまでに見たものは、いずれも、団地の郵便受けを小さくしたようなもので、金属製の長方形の箱状のものがたくさん並んでいるという種類でした。

そして、被相続人が利用していた貸金庫を開けるには、相続人全員の書面による同意又は立会いが必要とされます。

姉が交通事故で亡くなった

依頼者は70代の女性でした。

依頼者の姉が交通事故でお亡くなりになったという痛ましい事案でした。

依頼者は8人きょうだいでしたが、被相続人である姉は独身で子どもがいませんでした。

また、ご両親も既に他界されていましたので、この場合、きょうだいが相続人となります。ただ、一番上のお姉さんは既に亡くなっておりましたので、その長男(甥)が代襲相続人でした。

 

甥が依頼者を誹謗中傷

この甥は、亡くなった被相続人とはとても仲が良かったようなのですが、なぜか、依頼者を目の敵にしていました。詳しいことはわかりませんでしたが、何か、ボタンの掛け違いか勘違いがあったようです。

依頼者の代理人となった私が、この甥に対し、今後の遺産分割協議について連絡をとったところ、それに対する回答はなかった代わりに、他の相続人に対し、依頼者のことを誹謗中傷する手紙を送ったり、電話をかけたりしていました。

 

依頼者が激怒~調停申立てへ

他の相続人からこのことを聞いた依頼者はこれに激怒し、私からも、この甥に対し、そのような誹謗中傷をやめるように警告するとともに、円満な話し合いが困難であると思われたため、遺産分割調停の申立てをすることを告知する書面を送りました。

なお、依頼者は、この甥以外の他の6名の相続人とは良好な関係であったため、協議した結果、他の6名の相続人は、全員、その相続分を依頼者に譲渡する意向を示してくれました。

その後、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしました。

 

相続人の一人がドイツに

他の6名の相続人は、依頼者に対し、相続分を譲渡する手続をとり、他の6名の相続人は調停手続から脱退しました。

なお、この6名の相続人のうちのお一人がドイツに在住していたので、書類のやりとりと手続に、若干、時間と手間がかかりました。

というのは、ドイツを含む海外では、日本と違って印鑑がありませんので、当然、印鑑証明書というものもありません。

その代わり、サイン証明書(署名証明書)というものがあり、これは、現地の在外公館や公証人が、その人のサイン(署名)に間違いがないことを証明してくれるものです。

そこで、ドイツ在住の相続人からは、本人が署名した書類と、その署名が本人の署名に間違いないことを証明する旨のドイツの公証人の証明書を日本に送ってもらい、この書類(ドイツ語なので日本語訳を添付)を裁判所に提出することで無事に手続を完了することができました。

 

争点その1 貸金庫の開扉について

相手方が貸金庫の開扉を拒否

ところで、被相続人は、自宅近くの金融機関の支店に貸金庫を借りていました。このため、遺産分割手続を完了させるには、貸金庫を開けて、中身を確認することが必要でした。

しかし、相手方である甥は、終始、非常に感情的になっており、なぜか貸金庫の開扉に反対し、この金融機関にも貸金庫の開扉に応じないように繰り返し連絡していました。

私からは、貸金庫を開扉して内容を確認しないと遺産分割手続が進められないので貸金庫の開扉に同意してほしい旨の説明と、第三者として公証人に立ち会ってもらうことを提案し、調停委員からも説得してもらったところ、ようやく相手方も貸金庫の開扉に同意しました。

 

今度は金融機関が拒否

そこで、私から当該金融機関に対し貸金庫を開扉したいと連絡すると、今度は、この金融機関から、「相続人全員の立会いがなければ貸金庫を開扉することはできない」との回答がありました。相手方である甥からの度重なる脅しともとれる連絡に辟易していたようで、この金融機関の支店長から、何度も、私に泣きつくような電話がかかってきていました。

私から、この金融機関に対し、他の相続人は、全員、依頼者に相続分を譲渡しており、既に相続人としての地位を失っていること、貸金庫を開扉しないと遺産分割調停が進められないこと、裁判所からの要請でもあることを繰り返し説明しました。

 

またまた相手方が…

すると、またまた相手方が問題行動に出ました。それは、相手方は、調停期日において、調停委員、私及び相手方自身が同席の場で、被相続人名義の貸金庫の開扉について必要な協力をすることを約束したにもかかわらず、貸金庫の開扉の際に公証人が作成する「事実実験公正証書」に、立会人が署名、押印(実印)し、印鑑証明書の提出が必要であるということがわかった途端、相手方は、なぜか、「印鑑証明書は絶対に出さない。そういうことであれば、貸金庫の開扉には絶対に協力しない。」などと言い出したのです。

公証人が印鑑証明書を悪用することなど考えられませんので、私が理由を問いただしても、「協力しない」の一点張りで、全くもって意味不明でした。

私は、裁判所から相手方に対し、貸金庫の開扉に協力するよう要請してほしい旨の申入れをし、調停委員が相手方に対し、再三にわたって説得しました。

すると、ようやく、相手方は貸金庫の開扉に応じることになりました。

 

貸金庫を開けてみると…

そこで、この金融機関や公証人と事前に打合せのうえ、貸金庫を開扉する当日は金融機関の支店長と出張してくれた公証人に立ち会ってもらい、相手方も同席のうえ、やっとの思いで貸金庫を開扉することができました。

ここまでして開扉した貸金庫の中から、いったい何が出てくるのかと思ったら、中からは、遺産である不動産の古い権利証が出てきただけでした。これには、私も、金融機関の支店長も(おそらく公証人も)、拍子抜けしてしまいました。

 

争点その2 交通事故の損害賠償金について

ようやく貸金庫問題を解決したあと、交通事故の損害賠償金をどうするかが問題になりました。

法律上は、損害賠償債権は金銭債権ですので、相続開始と同時に法定相続分に応じて分割相続することになり、遺産分割の対象ではありません。

この点、依頼者は、他の相続人6名から相続分の譲渡を受けていましたので、損害賠償債権全体の8分の7、相手方は8分の1を相続したことになります。

 

結果

私は、依頼者の代理人として、交通事故の加害者の代理人と交渉し、加害者が加入している任意保険から、損害賠償金全体の8分の7相当額である約2000万円の支払いを受けることで示談を成立させました。

ところで、被相続人の遺産には、自宅不動産と預貯金及び株式があったのですが、相手方は自宅不動産の取得を希望しており、他方、依頼者は不動産の取得を希望していなかったため、相手方が不動産を取得し、依頼者はその他の預貯金及び株式を取得することになりました。
そして、相手方が不動産を取得すると、その法定相続分を超えることになるため、相手方が不動産を取得する代わりに、当方に一定額の代償金を支払うことで調停が成立しました。

 

解決のポイント

この事案では、相手方が終始感情的であったため、解決まで紆余曲折がありましたが、貸金庫を開ける際には、関係者と調整して、細心の注意を払うことが必要であることを痛感させられた事案でした。

この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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