兄弟間の骨肉の争いのため最終的な解決までに5年も要した事例

依頼者の性別と年代

40代 男性

相談背景

亡き父と同居していた実兄が亡き父を虐待していた疑いもあり、依頼者の実兄に対する憎しみの感情が非常に強く、とても円満に話し合える状況ではありませんでした。

そこで、とにもかくにも、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしました。しかし、遺産分割調停の中で、遺産の範囲に争いが発生してしまいました。

具体的には、当方が遺産であると主張していた実家の土地・建物について、相手方は、亡き父の生前に父親から贈与を受けていたので、既に自分のものであって、遺産ではないと主張したのです。

争点

本件の争点は、遺産である先祖代々の土地の分割方法で、依頼者は、この先祖代々の土地をとても大切に思っていました。

具体的には、道路に面して左右(東西)に分けるか、手前と奥(南北)に分けるかというもので、依頼者は、公平の観点から道路に面して左右(東西)に分けるべきと主張する一方、相手方は、左右(東西)に分けると間口が狭くなってしまうので、手前と奥(南北)に分けるべきと主張しました。

しかし、双方の感情的な対立から、議論は平行線のまま膠着状態となってしまい、容易に折り合いがつきませんでした。

弁護士の対応・解決までの流れ

「遺産の範囲」に争いが生じると…「遺産確認」の裁判へ

遺産分割調停は、まず、誰が「相続人」なのか、何が「遺産」なのかを確定し、相続人が、確定した遺産をどのように分割するかについて話し合う場です。

このため、何が「遺産」なのか、つまり、「遺産の範囲」に争いが生じてしまうと、それ以上、調停を進めることができなくなってしまいます。

そこで、やむなく、調停はいったん取り下げ、遺産の範囲を確定するための、「遺産確認請求訴訟」を提起しました。

「遺産の範囲」が確定すると…再度、遺産分割調停・審判へ

その訴訟において相手方が勝つためには、自分が父親から実家の土地・建物について生前贈与を受けていたという主張を裏付けるための証拠を裁判所に提出する必要がありました。

この訴訟は長引きましたが、相手方が自らの主張を裏付ける決定的な証拠を提出できなかったため、当方が一審で勝訴することができました。

これに対し、相手方が控訴しましたが、高裁では相手方の控訴が棄却され、最終的に、当方の勝訴が確定しました。

こうして、ようやく遺産の範囲が確定したため、再度、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをしました。

しかし、やはり、依頼者と実兄の感情的な対立が激しく、議論は平行線のまま、調停は不成立となり、審判手続に移行しました。

裁判所の出す結論(審判)の見通しは?

そこで、私は、先祖代々の土地をとても大切にしている依頼者の想いに寄り添いながらも、最終的に裁判官が審判を出す場合の結論の見通しについて考えました。

すなわち、遺産の分割方法には、

①「現物分割」

②「代償分割」

③「換価分割」

④「共有分割」

の4種類あるのですが、裁判官が審判を出す場合、法律では、この①~④の順番で検討することになっています。

本件の場合、双方が土地の分割方法(①現物分割)に合意できないときは、裁判官は、次に、②「代償分割」が可能かどうか検討します。

しかし、代償分割は、「代償金」が支払えることが確実でなければ審判を出すことができないのですが、本件では、依頼者にそのような資力はなく、その点が確実とはいえませんでした。

そうすると、このまま双方が土地の分割方法に合意できない場合、裁判官は、おそらく、③「換価分割」の審判を出すことが予想されました。

要するに、「土地を売却して、売却代金を分配せよ」という審判が出されることになってしまうのです。

依頼者への説明と説得~納得へ

私は、このように、裁判官が出すことが予想される審判(結論)を見据えたうえで、依頼者に対し、

「このまま分割方法に合意ができずに裁判官が審判を出すことになれば、換価分割となってしまい、○○さんは先祖代々の大事な土地を失うことになってしまいます。それは何としても避けなければなりませんよね。だとすれば、大変悔しいかもしれませんが、相手方の希望する手前と奥とで分ける分割方法を受け入れるしか方法はないと考えています。」

と、繰り返し粘り強く説明・説得しました。

結果

結果、依頼者は、最後には譲歩することに同意してくれることになり、審判が出されることなく、調停成立で事件終了となりました。

弁護士所感

この事件は、①調停→②裁判(一審)→③裁判(控訴審)→④調停→⑤審判→⑥調停成立という経過をたどったため、私が依頼を受けてから最終的に解決するまで、約5年を要しました。

私のこれまでの経験の中でも、最も解決に時間を要した事件であったため、調停が成立したあと、裁判所からの帰路に着く道すがら、その依頼者から「とても感情的になってしまって、長い間、先生にも大変ご迷惑をおかけしましたが、ようやく終わってすっきりしました。これまで、本当にありがとうございました。」と笑顔でおっしゃっていただけたのが、今でもとても印象に残っています。

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