納得できない遺言が出てきた事例

ご相談者は40代の男性でした。

亡くなった母親が、父親の異なるご相談者の異父きょうだいらに対し、全財産を遺贈する旨の自筆証書遺言を作成していたのですが、その遺言書が発見されたのが、母親が亡くなってから1年以上も経ったあとであったこと、遺言書を発見したのが異父きょうだいのうちの一人であったこと、関係者の名前の漢字を間違えていたこと、筆跡が母親のものではないのではないかなど、いくつか不審な点があるとのことで、遺言を無効にできないかとのご相談でした。

そのとき、既に、異父きょうだいから、遺言に基づき、土地所有権の移転登記を求める訴訟が提起されており、その対応をどうするか、決めなければなりませんでした(なお、遺言が自筆証書遺言であったため、公正証書遺言であれば必ず用いられる「相続させる」との文言を使わず、「遺贈する」という文言を使っていたため、相続人による単独申請による移転登記ができない事案でした)。

当職は、まがりなりにもご本人の署名・押印がある以上、遺言を無効にするのは相当ハードルが高いことをご説明し、協議した結果、裁判所が判断するのであれば仕方がないとのことで、裁判では、遺言の無効を主張しつつ、仮に遺言の無効を立証するのが難しいようであれば、予備的な主張として、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害されている遺留分の請求権を行使し、一定の金銭の支払いを求めるという方針で訴訟を進めることになりました。

その後、当職が、正式に受任し、依頼者の代理人として訴訟を進め、遺言が無効であることの主張・立証を尽くしましたが、裁判官の心証としては、やはり当初の想定どおり、証拠上、なかなか遺言が無効であるとまでは断定できないというもののようでした。

そこで、当方としては、やむなく、遺言が有効であることを前提に、遺言により侵害された遺留分の請求権を行使したうえで、相手方の代理人と期日間で交渉を重ねた結果、当方が遺産である不動産の移転登記手続に応じる代わりに、一定の金銭を価額弁償金として支払ってもらうことで依頼者の納得も得て合意が成立し、和解成立に至りました。

この事案では、遺言の有効性について、怪しいと思わせる不自然・不可解な点が数多く存在しましたが、実際に遺言を無効にすることのハードルが相当高いことを改めて再確認することになりました。

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この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

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