相続人の一人が認知症だったため遺産分割協議は無効?
相談に至った経緯
依頼者50代の男性でした。 依頼者によれば、数年前に行なった亡き父の遺産分割協議について、当時の相続人である母親と子2名(長男である依頼者と長女)のうち、母親が当時認知症であったことを理由に、数年後に亡くなった母親の遺産分割協議になって、今さら亡き父に関する遺産分割協議は無効であると主張されて困っているとのことでした。 私は、このご長男から依頼を受け、相手方である姉と話し合いをしようとしましたが、姉は、亡き父の遺産分割協議は無効であるからやり直すべきとの一点張りで話し合いでは解決しなかったため、やむなく、遺産分割調停の申立てをしました。
遺産分割調停の段階
調停申立て後、遺産の範囲及び遺産の評価額については比較的早期に確定しましたが、やはり、誰がどの不動産を取得するのか、あるいは、どの不動産を売却するのか、という遺産の具体的分割方法をめぐって協議が紛糾しました。
調停の段階で、当方は、当初、遺産たる不動産の現物の取得を希望し、具体的分割案について提案したことがありましたが、相手方らの反対のため、この提案が実現することはありませんでした。
このため、当方としては、現物分割及び代償分割のいずれも困難であれば、換価分割による他ないと考え、その旨主張するに至ったという経緯がありました。
もっとも、調停ではどうしても話合いがまとまる見込みがなかったため、調停は不成立となり、審判手続に移行しました。
遺産分割審判の段階
しかし、家裁の審判は、上記のような経緯があったにもかかわらず、遺産分割の方法として、現物分割が原則であることを理由に、相手方である長兄が取得を希望する不動産のほとんど全てについて、同人が取得することを認めてしまったのです。他方、当方依頼者を含む他の相続人は、長兄が取得した不動産以外の残りの不動産を競売手続により売却・換価して法定相続分で分配するという結論でしたが、当方依頼者らにおけるその後の競売手続の負担等を考慮すると、あまりに不公平な内容でした。
そこで、当方依頼者と協議した結果、家裁の審判を不服として、高裁に抗告の申立てをしました。
抗告審での主張
抗告審での当方の主張は、あくまで現物分割が原則的分割方法であることを前提としたうえで、その後の競売手続における多大な負担等を考慮した結果、遺産たる不動産のうち、一部の不動産の現物取得を希望するという内容でした。
この点、原審判の認定によれば、当方依頼者及び相手方らの具体的取得分はそれぞれ約3643万円であるところ、当方依頼者が取得を希望する不動産の評価額の合計は、約3226万円であったため、具体的取得分の範囲内の金額でした。
また、長兄以外の相手方ら3名は本件遺産のうち特に取得を希望するものはない旨明言していましたから、もともと不動産の換価分割を希望していた相手方らにおいては、長兄及び当方依頼者が取得する不動産以外の不動産について、換価分割の方法による分割をするのが相当であると考えられました。
以上のように主張したところ、高裁(抗告審)では、原審判の結論が変更され、当方の主張を認めてもらうことができました。
担当弁護士のコメント
この事案では、家裁において審判が出されたとしても、その内容に不服がある場合、諦めずに高裁に抗告をすれば、内容が合理的である限り、十分認めてもらえる可能性があるという教訓になりました。
この記事の執筆者
-
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
④分割方法の最新記事
兄弟姉妹の最新記事
- 相手方の特別受益の有無及び持戻し免除の意思表示の有無が争点となったところ、最終的にはほぼ当方の主張を前提とした内容の調停が成立した事例
- 不動産の評価額が争点となったことから、最終的には鑑定をしたうえで和解的解決をした事例
- 不動産の遺産分割について、家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 粘り強い交渉により比較的早期に解決できた事例
- 事前の財産調査に基づき比較的早期に交渉により解決した事例
- 不本意な遺産分割審判に対して抗告したところ高裁で主張が認められた事例
- 相続人が海外に?貸金庫を開けてみると…
- 財産目当てで高齢の親を「囲い込み」…親族との面会妨害?やった者勝ち?
- 相続財産調査で多くの遺産が判明~その後の調停で多額の代償金を獲得
- 一審で敗訴した遺言無効確認訴訟を控訴審から受任して逆転勝訴した事例
- 他の相続人から提起された遺産分割協議無効確認訴訟に勝訴!反対に、その相続人に対して遺留分請求訴訟を提起した事例
- 兄弟間の骨肉の争いのため最終的な解決までに5年も要した事例
- 他の相続人の所在が不明で連絡がとれないとのことで遺言執行の代理業務を受任した事例
- 姉に対して遺留分を請求したうえで、協議により、比較的早期に解決した事例
- 一部の相続人の所在と遺産の全容が不明で、一部の相続人の所在調査及び遺産調査をしてから遺産分割協議にて解決した事例
- 亡くなった父親の遺産分割をめぐり、母親と実兄との間で感情的な対立に至ってしまった事例
実家等の不動産の最新記事
- 相手方の特別受益の有無及び持戻し免除の意思表示の有無が争点となったところ、最終的にはほぼ当方の主張を前提とした内容の調停が成立した事例
- 不動産の評価額が争点となったことから、最終的には鑑定をしたうえで和解的解決をした事例
- 不動産の遺産分割について、家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 粘り強い交渉により比較的早期に解決できた事例
- 不本意な遺産分割審判に対して抗告したところ高裁で主張が認められた事例
- 相続人が海外に?貸金庫を開けてみると…
- 大正時代に亡くなった曾祖父名義の土地を相続
- 相続財産調査で多くの遺産が判明~その後の調停で多額の代償金を獲得
- 先妻の子と後妻との間の対立事例(寄与分の問題)
- 他の相続人から提起された遺産分割協議無効確認訴訟に勝訴!反対に、その相続人に対して遺留分請求訴訟を提起した事例
- 兄弟間の骨肉の争いのため最終的な解決までに5年も要した事例
- 姉に対して遺留分を請求したうえで、協議により、比較的早期に解決した事例
- 亡くなった母親の異父きょうだいらに対する遺留分請求の事例
相続解決事例の最新記事
- 相手方の特別受益の有無及び持戻し免除の意思表示の有無が争点となったところ、最終的にはほぼ当方の主張を前提とした内容の調停が成立した事例
- 不動産の評価額が争点となったことから、最終的には鑑定をしたうえで和解的解決をした事例
- 不動産の遺産分割について、家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 後妻との間で不動産の評価額及び金銭等出資型の寄与分の有無・金額が争点となった事例
- 家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 粘り強い交渉により比較的早期に解決できた事例
- 事前の財産調査に基づき比較的早期に交渉により解決した事例
- 不本意な遺産分割審判に対して抗告したところ高裁で主張が認められた事例
- 相続人が海外に?貸金庫を開けてみると…
- 【相続解決事例】生命保険金は「遺産」ではない?
- 大正時代に亡くなった曾祖父名義の土地を相続
- 財産目当てで高齢の親を「囲い込み」…親族との面会妨害?やった者勝ち?
- 相続財産調査で多くの遺産が判明~その後の調停で多額の代償金を獲得
- 一審で敗訴した遺言無効確認訴訟を控訴審から受任して逆転勝訴した事例
- 先妻の子と後妻との間の対立事例(寄与分の問題)
- 他の相続人から提起された遺産分割協議無効確認訴訟に勝訴!反対に、その相続人に対して遺留分請求訴訟を提起した事例
- 兄弟間の骨肉の争いのため最終的な解決までに5年も要した事例
- 他の相続人の所在が不明で連絡がとれないとのことで遺言執行の代理業務を受任した事例
- 姉に対して遺留分を請求したうえで、協議により、比較的早期に解決した事例
- 一部の相続人の所在と遺産の全容が不明で、一部の相続人の所在調査及び遺産調査をしてから遺産分割協議にて解決した事例
- 最初は行政書士に依頼された遺産分割協議書を途中から依頼を受け分割協議を成立させた事例
- 特定の相続人が被相続人の生前に被相続人の預貯金を使い込んでいた事例
- 亡くなった母親の異父きょうだいらに対する遺留分請求の事例
- 相続人のうちの一人が認知症のため家裁に成年後見人を選任してもらい、その後、遺産分割協議を成立させた事例
- 相続人のうちの一人が所在不明のため、家裁に不在者財産管理人を選任してもらったうえで、遺産分割調停が成立した事例
- 所在不明の相続人の所在調査をした結果、所在が判明し、遺産分割協議が成立した事例
- 亡くなった父親の遺産分割をめぐり、母親と実兄との間で感情的な対立に至ってしまった事例
- 納得できない遺言が出てきた事例
遺産分割の最新記事
- 相手方の特別受益の有無及び持戻し免除の意思表示の有無が争点となったところ、最終的にはほぼ当方の主張を前提とした内容の調停が成立した事例
- 不動産の評価額が争点となったことから、最終的には鑑定をしたうえで和解的解決をした事例
- 不動産の遺産分割について、家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 後妻との間で不動産の評価額及び金銭等出資型の寄与分の有無・金額が争点となった事例
- 家裁の審判に納得がいかずに抗告をした結果、高裁で家裁の判断を覆した事例
- 粘り強い交渉により比較的早期に解決できた事例
- 不本意な遺産分割審判に対して抗告したところ高裁で主張が認められた事例
- 相続人が海外に?貸金庫を開けてみると…
- 【相続解決事例】生命保険金は「遺産」ではない?
- 大正時代に亡くなった曾祖父名義の土地を相続
- 相続財産調査で多くの遺産が判明~その後の調停で多額の代償金を獲得
- 先妻の子と後妻との間の対立事例(寄与分の問題)
- 兄弟間の骨肉の争いのため最終的な解決までに5年も要した事例
- 一部の相続人の所在と遺産の全容が不明で、一部の相続人の所在調査及び遺産調査をしてから遺産分割協議にて解決した事例
- 最初は行政書士に依頼された遺産分割協議書を途中から依頼を受け分割協議を成立させた事例
- 相続人のうちの一人が認知症のため家裁に成年後見人を選任してもらい、その後、遺産分割協議を成立させた事例
- 相続人のうちの一人が所在不明のため、家裁に不在者財産管理人を選任してもらったうえで、遺産分割調停が成立した事例
- 所在不明の相続人の所在調査をした結果、所在が判明し、遺産分割協議が成立した事例
- 亡くなった父親の遺産分割をめぐり、母親と実兄との間で感情的な対立に至ってしまった事例