姉に対して遺留分を請求したうえで、協議により、比較的早期に解決した事例

依頼者の性別と年代

女性50代

相談内容

母が亡くなったあと、自筆証書遺言が見つかったのですが、その内容が、依頼者の姉にすべての財産を相続させるという内容であったため、依頼者である妹が姉に対して遺留分の請求をしたい、というご相談でした。

なお、父は既に亡くなっており、相続人は姉妹2人のみでした。

争点

1.母の介護への貢献に対する謝礼金の主張

姉は、生前に母の介護をするなどの面倒をみていました。

姉は、母から、毎月介護の謝礼を受け取っていましたが、母の生前、受け取る約束をしていたものの、まだ残り240万円を受け取っていないので、その分は、依頼者が主張している遺留分の額から控除するという主張がありました。

2.母が有していた借地権の評価額

母は都内の土地の借地権とその土地の上に建っている自宅を所有していました。依頼者も姉も、その家に住むことは考えていなかったので、その借地権と自宅を処分することには争いはありませんでした。

しかし、借地権評価額が、諸事情により、姉側では低く見積もられており、依頼者が主張する評価額との間に相当の開きがありました。

3.姉妹が受け取った生前贈与の扱い

姉妹は、被相続人である母の生前に、それぞれ200万円の贈与を受けていました。

両者ともに受け取ったことは認めていましたが、依頼者は、父が亡くなったときの遺産分割協議の際に、その生前贈与について精算済みであり、他方、姉は精算をしていないので、母からの200万円の生前贈与については、姉のみ、特別受益として、持ち戻しの対象とすべきであると主張していました。

弁護士による解決までの流れ

当職から、依頼者の姉に対し、遺留分減殺請求権を行使する旨の内容証明郵便を送付したあと、姉にも弁護士が代理人に就きましたので、その後は、当職と、姉の代理人との間でも交渉となりましたが、依頼者の主張を受けて、それぞれの争点については、以下のとおり、交渉を進めました。

1.母の介護への貢献に対する謝礼金の主張

母の生前に、母との間で、姉が母から240万円の謝礼を受け取るとの合意があったので、240万円を控除するとの主張に対しては、依頼者の意向どおり、そのような控除は認められないとの主張を展開しました。

といいますのは、万一、遺留分に関する交渉が決裂し、裁判になったとしても、母と姉との間にそのような合意があったことを立証する客観的証拠がないため、姉の主張が裁判で認められる可能性は低いと考えられたからです。また、仮に裁判で寄与分主張がなされたとしても、寄与分の主張は遺留分の額の減額理由にはならないからです。

2.母が有していた借地権の評価額

当職が、当初、路線価基準にて評価をしたところ、姉側の主張としては、母が生前、地主との間で、自分が亡くなったら自宅を取り壊して更地にして土地を返還するという口約束をしていたこと、借地権を譲渡するには賃貸人である地主の承諾が必要となりますが、地主が承諾する見込みがないこと、仮に、地主が承諾するとしても、承諾料を請求される可能性が高いこと、などの事情から、不動産会社の査定額は、路線価基準による評価額よりも相当低額なものでした。

この争点については、姉側の主張にも一理ありますので、交渉が決裂して裁判になった場合、姉側の主張が認められる可能性が高いことを考慮し、姉側の主張に譲歩することを依頼者に提案し、納得していただきました。

3.姉妹が受け取った生前贈与の扱い

生前贈与の持ち戻しの争点については、精算したことの立証が難しいことや、裁判になった場合に要する時間・費用・労力を考慮し、双方の主張の間をとって、200万円の半額だけ持ち戻す、ということで合意を得るように提案したところ、依頼者に納得していただきました。

結果

最終的には、交渉により合意が成立し、裁判をせずに解決に至りました。合意内容としては、依頼者が遺留分を主張した際の姉からの最初の提示額は約400万円でしたが、粘り強く交渉した結果、約600万に増額することができました。

弁護士所感

それぞれの争点について、もし、交渉が決裂し、裁判になった場合に裁判所が出すと予想される判決まで見通したうえで、そこから逆算して、交渉の段階で、どのような主張をすべきかを方針として依頼者に丁寧にご説明し、納得を得たことで、最終的に交渉は決裂せずに、比較的早期に解決に至ることができました。

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この記事の執筆者

武蔵野経営法律事務所

弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官

加藤 剛毅

専門分野

相続、不動産、企業法務

経歴

埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

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