遺産分割を放置するとどうなりますか?
兄弟との不仲などを理由に、遺産分割をせずに何年も放置していませんか。
遺産をそのままにしておくと「数次相続」というものが生じ、問題はさらに複雑化してしまいます。
できるだけ早めに遺産分割をしましょう。
Contents
数次相続とは新たに相続が起こること
先に父親が亡くなり、さらに母親の相続が起こったとき、法定相続人としての子が長男、二男、三男の3人と仮定します。
母親が所有している実家は、それぞれ1/3の法定相続分によって、3人の子が共同で所有することになりますが、このまま遺産分割協議をせずに放置して誰かが亡くなると、その相続人が1/3の所有権を相続するため、実家は存命の子2人と、死亡した子の相続人で所有することになります。
このように、相続人が亡くなってその相続人へ相続が起こることを数次相続と呼び、数次相続が起きるたびに当事者は増えていく可能性があります。
実家の売却を考えたとき、共有状態では全員の同意を必要としますから、面識がない・連絡が取れないなど、スムーズに進まないことは容易に予測できるでしょう。
そのため、遺産は放置せずに分割協議をするべきですし、協議ができないなら調停や審判を利用してでも遺産分割するべきです。
法定相続分は民法改正で変わっている
民法は何度か改正されていますが、昭和55年までと昭和56年以降では、配偶者の法定相続分が異なる扱いです。
配偶者と3人の子が存命のとき、昭和55年までは配偶者の法定相続分が1/3、3人の子は残りの2/3を3人で分け合うため、2/3×1/3になってそれぞれ2/9となります。
その後、存命の配偶者が亡くなって3人の子が相続すると、配偶者が相続していた1/3を3人で分け合うのですから、2/9に1/3×1/3を加えて、両親が亡くなった時点で1/3になるのは現行の民法と同じですが、遺産を長年放置すると、こうした民法改正の影響も受けるということです。
また、昭和22年5月2日までは、家督相続制度が残っており、家督を相続する男性の長子(つまり長男)が全てを相続する扱いになっていたため、こちらも問題になりやすいと言えます。
不当利得の返還請求には時効がある
亡くなった母親が仮に賃貸住宅を所有していたとき、相続後の賃料収入は相続財産ではありませんが、賃料収入は法定相続分に応じて相続人が取得します。
ところが、仮に長男が賃料収入を全て取得している場合、二男と三男は、長男に対してそれぞれ法定相続分1/3の返還を請求することができ、これを不当利得返還請求と呼びます。
不当利得の返還請求権は10年で時効消滅するので、長男の賃料収入が10年以上にわたるときは、過去10年分しか返還請求できません。
また、不動産には固定資産税や都市計画税が毎年発生しますが、長男が全額を負担していたとき、長男は二男と三男に対して1/3ずつの負担を求めることが可能です。その場合でも、二男と三男は時効によって過去10年分しか負担しなくて済みます。
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この記事の執筆者
武蔵野経営法律事務所
弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
加藤 剛毅
専門分野
相続、不動産、企業法務
経歴
埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
この記事の執筆者
-
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
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