相続人全員が相続放棄をしましたが、この場合、放棄された不動産は放置しても大丈夫でしょうか?

「相続放棄をしたのだから、相続財産に対する管理責任からも解放されるだろう。もう私には関係ない。」と安易に考えてしまう方が多いのではないでしょうか。実は、ここに大きな誤解があります。

本当は、相続放棄をしたからといって相続財産の管理責任から解放されるわけではありません。

次の管理者が現れるまでは管理を継続する必要がある

民法918条によれば、「相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は相続放棄をしたときは、この限りではない。」との規定があります。

この規定を一見すると、相続人は、相続放棄・承認をするまでの間、自己の固有の財産におけるのと同一の注意を払って相続財産を管理すべき義務があるということですから、相続放棄をすると管理義務がなくなるかのように読めます。

しかし、相続放棄をした場合は次の規定により、そうではないことが分かります。

すなわち、民法940条によれば、「相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」とされています。

つまり、相続放棄をした者は、次の管理者が現れるまでは、家屋(相続財産)の管理を続けなければなりません
その結果、相続放棄をした者は、もし、家屋が老朽化して倒壊する危険があれば、補強工事をしなければなりませんし、雑草が生い茂って害虫が発生するのであれば、除草・駆除しなければなりません。

管理義務はいつまで?

では、いったいいつまで管理義務を負うのでしょうか。新たに相続財産の管理事務を担う者が登場しなければ、相続放棄をした者は、永遠に、以上のような管理義務を負ったままになってしまいます。

これでは何のために相続放棄をしたのか分からなくなってしまいます。

これに対する唯一の解決手段が「相続財産管理人の選任手続」なのです。

この点に関し、民法は次のように定めております。

民法951条 相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とする。
民法952条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

結局、すべての相続人が相続放棄をし、相続人が存在しなくなった場合、相続財産は法人となり、その法人の管理業務を担うのが相続財産管理人です。

相続放棄をした者は、「利害関係人」の立場で家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求します。

相続財産管理人が正式に選任されれば、相続財産の管理責任は相続放棄をした者から相続財産管理人に引き継がれますので、この手続きが完了すれば、相続放棄をした者は、相続財産に対する管理義務から解放されることになります。

ここで問題は、相続財産管理人の選任を請求するには、裁判所に予納金を納める必要があることです。予納金の金額は、事案の複雑性、換価すべき財産の有無等にもよりますが、概ね50~100万円の間くらいとされています。

この予納金は、申立人が負担しなければならず、将来、相続財産が現金化されることも望めない場合には、結局、予納金は自己負担になってしまう可能性が高いです。

価値のない家屋等の相続財産が残された場合

この場合は極めて厄介な問題となります。

『すべての相続人が相続放棄をし、管理を引き継ぐべき相続人がいない場合は、相続放棄をした相続人は、予納金の負担をして相続財産管理人が選任されるまでは、相続財産について管理を継続しなければならない。

相続財産管理人が選任されれば、相続放棄をした者は相続財産に対する管理義務から解放されることになるが、納めた予納金は戻ってこない可能性がある。
という結論になります。

家屋に資産価値がある場合

この家屋に資産価値がある場合は(おそらく借金の方が多すぎて相続放棄した事例と思われ、同時に債権者がいる場合がほとんどですから)、債権者が利害関係人として「相続財産管理人」の選任の申立てをして、相続財産管理人が家屋を換価し、債権者に対する債務の弁済に充てるという流れがあり得ますので、相続人にとって、家屋に資産価値がない場合のような問題は生じないと考えられます。

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この記事の執筆者

武蔵野経営法律事務所

弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官

加藤 剛毅

専門分野

相続、不動産、企業法務

経歴

埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

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