遺産分割協議に応じてもらえない!そんなときどうしたら良いの?
遺産分割協議に応じない相続人がいて、相続手続が進まなくて困っている…。
年を重ねたきょうだい間の相続など、お互いに家族を持っていたりすれば、相続手続がスムーズにいかない場合もあります。
遺産分割協議に応じない相続人も出てくるかもしれません。
そんなとき、どんな問題が起こるのでしょうか。
今回は、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合の具体的・実践的な解決方法をご説明します。
Contents
遺産分割協議に応じない人がいるのはどんなケースか?
遺産分割協議に応じない人がいるケースは様々ですが、具体例を列挙してみました。
特定の相続人だけが協議に応じない、というケースもあれば、相続人の間の確執などで、全く遺産分割協議に入れないまま時間だけが経過していくケースもあります。
(1)相続財産の分割が困難な場合
例えば、めぼしい相続財産は被相続人の自宅土地建物のみで、(被相続人の)妻や長男夫妻などが同居しており、そのまま住み続けることを願っている場合です。
他の相続人たち(被相続人の子)は、妻(母)や長男が資産価値のある自宅を相続するなら、自分たちにはそれなりの金銭などで公平な遺産分割をしたいと考えるでしょう。
一方で、妻(母)や長男にはそんな金銭的余裕はなく、「これまで故人の面倒を見てきた自分たちが相続するのは当たり前だ。今まで親父をほったらかして、相続になると目の色を変えて群がってくる弟妹こそけしからん。」という気持ちになるでしょう。
(2)財産を管理していた相続人の不審な行為(財産使い込みなど)がある場合
被相続人はそれなりの金融資産等を有していたはずなのに、同居していた長男に相続財産について尋ねても、曖昧な返事を繰り返すだけ。
「ひょっとしたら、長男が金融資産等を使い込んだり隠したりしているのではないか。」と他のきょうだいたちが不信感を持つケースです。
遺産分割協議のために預金通帳その他の資料の提示を求めても、「いま整理しているのでもう少し待っていてくれ。」などと言われて、ますます不信感を募らせる、ということもよくあります。
(3)相続人間に確執がある場合
昔の争いが相続をきっかけに再燃するケースです。
例えば、父の相続のときにきょうだい間の紛争があり、その恨みから、今度は母の相続のときに父の相続のときの争いを蒸し返す、というケースも多々あります。
(4)特別な関係のある相続人がいる場合
離婚した前妻の子どもと後妻との争いが分かりやすい例です。
「被相続人の困窮時に前妻は何の面倒も見ずに家を飛び出した。相続になると、これまで会ったこともない前妻の子どもが遺産分割を求めてきた。」
後妻やその子どもたちにとっては、とても許せない、といった気持ちにもなるでしょう。
一方で、前妻の子は「苦労を共にしてきた母を父は追い出したうえ、後妻が全てを独り占めにしようとしている。」などと考えているかもしれません。
それ以外にも、相続発生時に戸籍を調べて隠し子が判明した等もありうる事態です。
前妻の子でも隠し子でも、相続人には変わりないのです。
(5)納得のいかない遺言がある場合
「親父がボケ始めたのをよいことに、同居の長男夫婦が親父を囲い込んで自分たちに都合の良い遺言を書かせた。」といった紛争です。
長男夫婦とすれば、「長年親身にお世話をした親父が感謝の気持ちでふさわしい遺言を書いてくれたのに、これまで便りひとつよこさなかったきょうだいが、財産だけをふんだくろうとしている。」という気持ちにもなるでしょう。
(6)被相続人の生前の様々な言動への不審(特定の相続人への生前贈与等)がある場合
「親父は、可愛がっていた妹には結婚のときに自宅まで購入してやり、その後も様々面倒を見てやった。孫の学資まで出してやったそうではないか。長男の自分には『お前は男だ。大学まで出してやったから、後は自分でちゃんとしろ。』と言ってろくな財産もくれなかった。相続の際にはちゃんともらうものはもらうぞ。」などというケースです。
(7)長男の妻など被相続人のお世話をした人への配慮不足がある場合
長男の妻が長く被相続人のお世話をしていたのに、いざ相続になると、被相続人の他の子たちが等分に相続することを主張し、長男の妻への配慮を一切しない。
そのため長男が怒ってしまう、といったケースです。
遺産分割協議を放置するリスク
前述のようなことで遺産分割が進まないと、いっそ放置してしまおうというご家族もいるのではないでしょうか。
しかし、放置は以下のリスクが発生します。
以下、順番に見ていきましょう。
(1)相続財産の使い込みや隠蔽のリスク
金融機関などに死亡届も出さないままに、同居していた長男が預金を引き出して使いこんでしまう、といったケースです。
キャッシュカードで簡単に預金が引き出せる時代です。放置していると預金がどんどん流出しかねません。
なお、銀行の立場では、相続開始の事実を知らずに払戻しに応じた場合には原則として有効であり、銀行は責任を免れます(受領権者としての外観を有する者に対する弁済:民法478条)。
よほど不審な事情がないかぎり、銀行としては積極的に相続の事実を調査することはないでしょう。
これについて、「一つの銀行に死亡届を出すと、銀行間で連絡を取り合って他の全ての銀行で預金口座を凍結して払戻しできないようにしてくれるはず。」と思っている人がいるようです。
しかし、実際には、銀行が個人情報を軽々しく他の銀行に提供することはあり得ません。
財産を管理している長男などが、メインの銀行の分だけは死亡届を出して、他の相続人に対してきちんと手続を進めているように見せかけておき、それ以外の預金は隠しておくこともできてしまうことに注意が必要です。
(2)所得税の準確定申告に支障が生ずるリスク
被相続人が確定申告をしていた場合には、相続人が被相続人に代って確定申告します。
被相続人が死亡したことを知ったときから4か月以内に申告・納税が必要です(「準確定申告」)。
相続人間でもめていて準確定申告をしていないと、延滞税などの問題も生じ得ます。
(3)相続財産の換価などの処分ができなくなるリスク
「主人が亡くなったので、私は自宅を売却して有料老人ホームに入居したい。」
そんな将来の生活設計を考えておられることもあると思います。
しかし、遺産分割協議がまとまらないと、自宅は相続人の共有のままです。全相続人の同意がなければ処分はできません。
このように、将来の生活設計にも支障が生ずるのです。
(4)相続税の申告・納税ができなくなるリスク
相続税の納税は、相続発生の10か月後が期限です。
遺産分割協議でもめていて相続税の申告・納税期限を超えてしまうと、延滞税が課されます。
延滞税は納期限の翌日から2か月を経過する日までは年率で7.3%、2か月を超えると14.6%などとなっています(注)。
いずれにしても、もめていなければ必要のなかった負担であり、せめて相続税の申告・納付には遅れないように、相続人間でとりあえずの対応を協議すべきでしょう。
※(注)最近の低金利を反映して、延滞税率には様々な特例措置があります。詳細は国税庁のウェブサイトをご参照ください。
(5)相続人間の将来の紛争の種となるリスク
相続人間の確執は将来に禍根を残します。ご主人が亡くなり、奥様お子様が相続されたような場合、奥様の死亡による次の相続発生などは意外に早くやってきます。そんなときにまたもや相続人間の争いが再燃するのです。
遺産分割協議に応じない人がいる場合は弁護士に頼ろう
(1)相続人間の話し合いでの解決は困難
遺産分割に不満をもつ相続人にとっては、遺産分割に応じないのは他の相続人への嫌がらせとして一番強力な武器となります。
相続財産が宙ぶらりんのまま、他の相続人が困り果てることになるのです。
こんなときに相続人間の話し合いで円満解決するのは、不可能に近いと言えるでしょう。
不満を言う相続人にある程度多めに遺産を分割することを考えると、これが他の相続人の不満の種となり、ますます紛争が深刻化しかねません。
(2)ともかく早めに弁護士に相談するのが一番
相続案件の経験豊富な当事務所の弁護士は、冷静な立場で、これまでに培ってきた経験や専門知識を駆使して解決策をご提案いたします。
なお、弁護士を代理人にしたら大事になり、余計に相続人間の信頼関係が破壊される、などと言う人もいるようですが、それは大きな間違いです。
①すでに相続人間の信頼関係は破壊されている
今さら「信頼関係維持」などといったところで手遅れでしょう。
むしろ、相続案件の経験豊富な弁護士なら、弁護士が介入したら他の相続人がどう思うかなどは十分理解しています。
②相手方の相続人は既に弁護士に相談している可能性がある
相手方のバックに専門家がついていると、交渉においてご自身は圧倒的に不利になるでしょう。
(3)遺産分割調停などの解決策を考えよう
弁護士が代理人になって協議をしても、まとまらないこともあります。
そのようなときは、早々に協議を切り上げて、遺産分割調停の申立てをすることになります。
調停では基本的に相手方と顔を合わせなくて済むというのは意外に知られていませんが、調停の大きなメリットの一つです。
なお、調停でもまとまらないときは、自動的に「審判手続」に移行し、最終的には、裁判所が遺産分割の方法を「審判」という形で解決してくれます。
まとめ
相続人間の争いは、お金だけの問題ではなく感情的な争いも絡むので、本当に深刻なものとなります。
誠意を持って話し合うことは大切ですが、いたずらに時間をかけ、お互いの不信感を募らせて、紛争がより深刻化・長期化してしまうことがしばしばあります。
早い段階で弁護士に相談すれば、それだけ、より早期解決の道が見つかることが多いのです。
相続人間の身内の争いであっても、専門家に頼ることは何ら恥ずかしいことではありません。
相続人間の紛争をできる限り早期に解決することは、亡くなった故人への供養ともなるでしょう。
相続人間で協議ができない、あるいは、協議がまとまらない場合には、できる限り早く弁護士に相談することをお勧めいたします。
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この記事の執筆者
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専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
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