亡くなった親の預貯金、すぐに引き出すことは可能ですか?

質問

先日、私の父が急逝しました。父の相続人は父の妻である母と、私、妹の3人であり、遺言書はありませんでした。

父の葬儀を行いたいのですが、私も妹も資金的な余裕がありません。母も生活費を父の収入に頼っていたため、母名義の預金はほとんどない状況です。

そのため、葬儀費用及び母の当面の生活費とするために父の口座からお金を引き出したいと考えています。遺産分割はまだ行なっていませんが、父の口座から預金を引き出してもよいのでしょうか。なお、お金を引き出すことについては母も私も妹も異論ありません。

 

回答

口座の名義人が亡くなって金融機関がそれを知った場合、金融機関は口座凍結の処理を行い、その口座からは自由にお金を払い戻せないようになります。

凍結された口座からお金を払い戻すことは、相続人であっても簡単にできるものではなく、金融機関の定める書類を揃える必要があります。

金融機関が預金の払戻しのために求める書類は、例えば以下のようなものがあります。

遺言書がない場合

・金融機関所定の相続届
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
・全ての相続人の戸籍謄本(被相続人の方との関係が分かるもの)
・遺産分割協議書がある場合は遺産分割協議書
・遺産分割協議書がない場合は払戻しについて相続人全員の同意書
・相続人の印鑑登録証明書
・被相続人の通帳、キャッシュカード等

遺言書がある場合

・金融機関所定の相続届
・被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)
・遺言書
・検認調書又は検認済証明書
・遺言執行者が家庭裁判所の審判によって選任されている場合は遺言執行者選任審判書
・遺言執行者又は受遺者の印鑑登録証明書
・被相続人の通帳、キャッシュカード等

これはあくまで一例ですので、実際に相続後に金融機関から預金の払戻手続をする場合は各金融機関に確認することが必要です。

被相続人の口座を凍結して払戻しに必要書類を求めるという取扱いは、従来は法律で定められていたわけではなく、各金融機関が定めたルールに基づいて行なっていたものでした。

従来の判例(最判平成16年4月20日)では遺産に預金債権がある場合、法定相続分に従って各相続人に当然に分割相続されると考えていたため、各相続人は自己の相続分に従った預貯金の払戻しを請求する権利がありました。したがって、金融機関が自ら定めたルールに固執して、自己の相続分に従った払戻しを要求しても応じない場合には、訴訟を提起することによって払戻しを命ずる判決が出されることもありました。

しかし、近時、遺産である預金債権の取扱いについて、従来の判例を変更する判断が登場しました。

最大決平成28年12月19日(以下「平成28年決定」といいます。)は「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」と判示し、預金債権は相続分に応じて当然分割相続されるものではなく、遺産分割の対象になることを明らかにしました。

これは、遺産分割が成立するか、共同相続人全員の同意がなければ預金の払戻しを請求することができなくなったことを意味します。

従来は、法律上相続分に従った預貯金の払戻しを請求する権利があるにもかかわらず、遺産分割のトラブルを避けるため、各金融機関が定めたルール上の取扱いとして、必要書類のない預金の払戻請求を拒んでいたに過ぎませんでした。

しかし、平成28年決定が出されたことによって、各金融機関は判例違反になる可能性のある取扱い、つまり、遺産分割の対象である預金を相続人全員の同意を得ずに特定の相続人に払い戻すことはしないと考えられます。また、平成28年決定の考え方を前提とすると、相続人は全員で共同しなければ預金の払戻しを受けることができないため、共同相続人の1人が法定相続分に応じて預金を分割相続したと主張して金融機関に対する払戻請求訴訟を提起しても認められない可能性が高いと考えられます。

本件は、遺言書はなく遺産分割も未了ということですが、幸い払戻しについて共同相続人間で異論がないようですので、上記①記載の書類を用意すれば金融機関から払戻しを受けることができると考えられます。

なお、近時の法改正により、相続人の各種の資金需要に迅速に対応することを可能とするため、各共同相続人が、遺産分割前に、裁判所の判断を経ることなく、一定の範囲で遺産に含まれる預貯金債権を行使することができることになりました。

具体的には、各共同相続人が払戻しを受けられるのは、各預貯金債権の額の3分の1に払戻しを求める共同相続人の法定相続分を乗じた額とされています(民法909条の2前段)。ただし、金融機関ごとに150万円が上限とされていますので、注意が必要です。

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この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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