遺言書の偽造が疑われる場合にはどうすればいいのでしょうか?

遺言書の偽造が疑われる場合、民事上は遺言無効確認訴訟を提起して遺言の有効性を争い刑事上は有印私文書偽造罪及び同行使罪の罪名で所轄警察署に対し刑事告発をすることが考えられます。

それでは以下で詳しく見ていきましょう。

遺言を偽造するとどうなる?

偽造とは、作成名義を偽って新たに文書を作成することをいいます。

自筆証書遺言は、全文を自書しなければ無効となってしまいますが(なお、相続法改正により、自筆証書遺言に財産目録を添付する場合には、その目録は自書の必要がなくなりました)、偽造された遺言は、「自書」性の要件を満たさないため無効となります。

そのため、偽造された遺言はなかったものとして、遺産分割が行われることになります。

それでは、遺言書が偽造され、それを真正な遺言書として他の相続人に示した場合、どのような法的責任を負うのでしょうか。

まず、民事上は相続人の欠格事由に該当し、相続権を失うことになります(民法891条5号)。

また、刑事上は有印私文書偽造罪及び同行使罪の構成要件に該当し、3月以上5年以下の懲役に処せられます(刑法159条1項、161条1項)。

このように、遺言書を偽造し、真正な遺言書として他の相続人に提示した場合、民事・刑事それぞれの重い法的責任を負うことになります。

遺言書の偽造を争う方法~民事編~

それでは次に、遺言書の偽造が疑われる場合、民事ではどのように争うのかについて解説していきます。

まず、先ほども述べたとおり、偽造された遺言書は無効ですが、他の相続人が有効であると争う場合は、遺言の無効確認請求訴訟を提起して、遺言が無効であることを裁判所に確認してもらうことが必要になります。

そして、裁判所が、遺言は無効であるとの判決を出した場合、相続人はその判断に拘束されることになります。

もっとも、その判決の効力が生じる範囲は、あくまで「遺言が無効であること」にとどまり、「遺言書が偽造されている」という判決理由の部分については拘束力が生じません。

そのため、ある相続人が偽造したかどうか、それにより相続権を失ったか否かについて、裁判所の拘束力のある判断を得るためには、偽造したと思われる相続人が欠格事由に該当し、相続権を失ったことの確認を裁判所に求める、すなわち、相続権不存在確認請求訴訟を提起することが必要となります。

これにより、被告とされた者が偽造したことを理由として、その者の相続権が不存在であるとの裁判所の判断がなされた場合、その者は裁判所の判断に拘束され相続権を失うことになりますので、今後、その者を除いて遺産分割協議を行うことが可能となります。

遺言書の偽造を争う方法~刑事編~

次に、刑事上ではどのように遺言書の偽造を争うのかを解説していきます。

まず、自筆証書遺言は、公務員が作成する公文書ではなく、一般私人が作成する「権利、義務又は事実証明に関する文書」にあたりますので「私文書」にあたります。そして、遺言書の有効要件として押印がされますので、「有印」の私文書となります。

そのため、この文書を「偽造」した場合、有印私文書偽造罪に該当します。

さらに、この偽造された有印私文書を「行使」した場合、偽造有印私文書行使罪に該当します。「行使」とは、偽造された私文書等を真正なものとして他人に提示するなどして内容を認識できるようにした場合のことをいいます。

そこで、ある相続人が自筆証書遺言を偽造し、他の相続人に真正な遺言書であるとして提示した場合、有印私文書偽造罪及び同行使罪という犯罪になりますので、他の相続人としては、所轄の警察署長宛に刑事告発して、刑事処分を促すという対応が考えられます。

偽造であることの立証方法

まず、被相続人が自書した書面と遺言書の筆跡について、筆跡鑑定を行うことが考えられます。

もっとも、結果については筆跡鑑定人ごとに内容が異なることが少なくないため、精度としては、鑑定結果のみで偽造の有無を認定できるほどではなく、裁判所でも、あくまで事情・証拠の1つとして考慮されるに過ぎません。

また、遺言者の診断書が証拠になることもあります。

例えば、遺言作成日当時に、遺言者の自筆能力や判断能力がないことがわかる診断書や周りにいた方の証言などがある場合は、それらも、本人(の意思)で作成することができないことを示すものですので、偽造を推認する証拠となります。

① 相続人は遺言を偽造すると相続権を失う
② 偽造が疑われる場合、民事上は遺言無効確認請求訴訟や相続権不存在確認 請求訴訟を提起する
③ 刑事上は、有印私文書偽造罪及び同行使罪の罪名で刑事告発する

まとめ

特定の相続人による遺言書の偽造が疑われる場合には、民事では遺言無効確認又は相続権不存在確認の訴訟を提起し、刑事では有印私文書偽造及び同行使罪で刑事告発をするという対応が考えられます。

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この記事の執筆者

加藤 剛毅弁護士 元さいたま家庭裁判所家事調停官
専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。

家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。

家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。

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