遺産分割がまだ終わっていない!相続税の申告期限に間に合わないときの対処法は?
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遺産分割協議に期限はない?
遺産分割協議をいつまでに終えなければならないという期限はありません。そのため、たとえば相続開始後5年や10年経過してから遺産分割協議を始めたとしても、相続人全員が参加して行われていれば、その遺産分割協議自体は有効です(なお、民法の改正により、相続開始後10年を経過すると特別受益や寄与分の規定が適用されないことになりました)。
もっとも、遺産分割協議が完了しない状態が長く続くと、遺産を相続できないためにご遺族の生活に影響が出ることが考えられます。また、遺産分割協議が終わらないうちに次の相続が起こると相続人の数が増えることになり、協議がより一層困難になりかねません。
さらに、これまでは、遺産分割協議が終了せずに、特定の期限を超えることで法令違反や罰則の対象になる心配はありませんでしたが、民法等の改正により、今後は、遺産に不動産がある場合、相続開始を知った時から3年以内に相続登記等の手続をすることが義務化され、これに違反した場合には罰則の対象とされることになりましたので、ご注意下さい。
相続税の申告期限には注意が必要!
上記の相続登記に関する期限を除けば遺産分割協議自体に期限はないものの、相続税の申告期限には注意が必要です。相続税の特例制度の中には、申告時に遺産分割協議が完了していないと使えないものがあります。
相続税の特例制度が使えるかどうかで、税額が数百万円~数千万円変わることも珍しくありません。相続税の申告期限である「相続の開始を知った日の翌日から10か月後」までに遺産分割協議が終わるかどうかは、相続人にとって影響の大きい重要なポイントです。
また、この後お伝えする方法を使えば相続税の申告期限後に適用できる特例制度もありますが、そういった場合でも当初の相続税の申告時には特例が適用できませんので、後日払い戻しを受けられるとしても、いったんは高額な納税資金を準備しなければならないことがあります。
そのため、次に紹介する特例制度を使う場合には、相続税の申告期限を意識して遺産分割協議を進めることが重要です。
もっとも、実際にはどうしても遺産分割協議に時間がかかってしまうケースはあるため、その場合は早めに弁護士に相談したほうが良いでしょう。相続に強い弁護士が代理人になることで話し合いが進んだり問題を解決したりすることができ、相続税の申告期限に間に合うこともあります。
遺産分割協議が相続税申告期限前に終わらない場合のデメリット
相続税が軽減される制度や納税が猶予される制度など、相続税には様々な特例制度が用意されています。「遺産を相続する人」や「相続する遺産の種類」に応じた配慮が必要と考えられるケースでは、他のケースと全く同じように相続税を課税すべきではないからです。
もっとも、裏を返せば特例制度を使えるのは、あくまで「遺産を相続する人」とその人が「相続する遺産の種類」が決まっている場合です。遺産分割協議が終わらず、誰がどの遺産を相続するのか決まっていなければ、特例制度は利用できません。
ここで、遺産分割協議が終わっていないことで利用できない特例制度について、主な制度をご紹介します。
- 配偶者の税額軽減の特例
- 小規模宅地等の特例
- 物納
「配偶者の税額軽減の特例」が適用できない
「配偶者の税額軽減の特例」とは、配偶者が相続する場合、「1億6000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のうち、いずれか高い金額まで相続した遺産に相続税がかからない制度です。
配偶者は、故人の遺産形成に貢献した存在として、相続税が大きく軽減される仕組みになっています。少なくとも1億6000万円の遺産までは相続税が非課税になるため、税負担の軽減効果が非常に大きい制度です。
もっとも、この特例の対象になるのは、遺産分割などで配偶者が実際に取得した財産です。相続税の申告期限前に分割されていない遺産はこの特例の対象にならず、税額軽減の恩恵を受けられません。
なお、この後紹介する対処法を使えば、相続税の申告期限後でも「配偶者の税額軽減の特例」を利用できます。ただし、このときに注意しなければならないことは、当初の相続税の申告では特例が適用されない点です。
そのため、遺産分割が完了した段階で税額計算をやり直し、払い過ぎている相続税があれば払い戻しを受けられますが、当初の相続税の申告時にはいったん納税資金を準備しなければならないことがあります。納税資金の準備など、必要な対策は早めに行うようにしましょう。
「小規模宅地等の特例」が適用できない
「小規模宅地等の特例」とは、被相続人が居住用や事業用として使っていた土地を相続する場合、相続税の計算において土地の評価額を50%又は80%減額できる制度です。
特例を適用できる要件は細かく決まっていますが、その土地で暮らしたり事業を行なったりして収入を得る遺族の生活を考慮して、相続税が軽減される仕組みになっています。
ただし、この特例は要件に該当する一定の相続人が土地を相続する場合に使える制度ですから、遺産分割協議が終わっておらず、誰が土地を相続するのか決まっていなければ、この「小規模宅地等の特例」は利用できません。
なお、この後紹介する対処法によって相続税の申告期限後でも適用される点は、前述の「配偶者の税額軽減の特例」と同様です。
「物納」を選択できない
相続税の納税は、10か月以内に「金銭」で行うことが原則です。もっとも、一定の条件を満たす場合には分割で納付する「延納」を選択でき、延納によっても金銭による納付が困難な場合には、相続財産をそのまま納める「物納」が認められています。
ただし、「物納」とは、あくまで相続した財産を納付する制度であるため、具体的に相続する財産が決まっていなければ基本的に使うことができません。そのため、遺産分割協議が相続税の申告期限前に終わっていないと、「物納」は原則として認められないことになります。
遺産分割協議が相続税申告期限前に終わらない場合の対処法
これまで紹介した特例のうち、「配偶者の税額軽減の特例」と「小規模宅地等の特例」については、申告期限後に適用を受けることができます。遺産分割協議が相続税の申告期限前に終わらない場合でも、必要な手続をしておけば事後的に特例の適用が可能です。
申告期限後3年以内の分割見込書を提出する
法定相続分に基づいて税額を計算して相続税の申告書を提出する際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出します。この見込書を申告時に提出しておけば、期限後に遺産分割協議が成立した際に「配偶者の税額軽減の特例」や「小規模宅地等の特例」を適用できます。
なお、見込書では「分割されていない理由」や「分割の見込みの詳細」を記入したり、「適用を受けようとする特例等」を選択したりしますが、実際の書類の作成は税理士に依頼することが一般的です。
遺産分割が完了したら更正の請求又は修正申告を行う
3年以内に遺産分割が完了したら、実際に相続した遺産額に基づいて税額を計算し直します。法定相続分に基づいて計算した税額で当初納税していた場合、計算し直して過大に納めていた分があれば払い戻しを受けることができ、そのための手続が「更正の請求」です。
他方、逆に当初納めた税額では不足していた場合は、追加で納税をしなければなりません。その場合は、相続税の申告内容を訂正する「修正申告」を行います。
申告期限後3年以内に分割が終わらない場合は再延長する
「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出していた場合でも、3年以内に遺産分割が終わらないこともあります。その場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、再延長が可能です。
なお、「やむを得ない事由」とは、例えば裁判が続いているようなケースで、こういった場合には3年よりもさらに期間を延長できるようになっています。
まとめ
遺産分割協議自体に期限はありませんが、相続税の申告期限前に終わっていないと、相続税の様々な特例が使えなくなります。軽減制度が適用できずに相続税が高額になったりしては大変です。
遺産分割協議が相続税の申告期限までに終わりそうにない場合でも、相続に強い弁護士に相談することで問題を解決でき、相続税の申告期限に間に合うこともあります。遺産分割でお困りの方は、是非、当事務所にご相談ください。
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この記事の執筆者
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専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
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