財産目当てで高齢の親を「囲い込み」…親族との面会妨害はやった者勝ち?
高齢になった親の財産をめぐり、昨今、「囲い込み」と呼ばれるトラブルが増えています。
親の面倒を見ている子どもが、他の親族との面会を妨害するというものです。
これから、実際に私が受任した案件についてご紹介いたします。
Contents
兄が母親に会わせてくれない!?母親と一目会いたい…
高齢の母は兄の自宅で兄夫婦と同居しており、終末期のガンで自宅療養中だが、兄が母を囲い込んで会わせてくれない、何とか、余命幾ばくもない母と面会して話がしたいとのことでした。(いわゆる「囲い込み」です)
また、母親が兄夫婦と同居する自宅の土地建物は母親が所有していたのですが、依頼者が母親と会えなくなる直前に、母親から兄に生前贈与されていることが判明したのです。
そこで、この女性からの依頼を受け、裁判所に対し、兄と兄嫁を相手方として、「面会妨害禁止の仮処分」の申立てをすることにしました。
しかし、兄の頑なな態度のために審理は難航…
実は、この申立てをする前に、依頼者が母親に会うために近所にある兄の自宅を訪問した際、兄が警察を呼ぶ騒ぎになったり、兄から「面談強要禁止の仮処分」の申立てをされるなど、感情的な対立はかなり激しいものがありました。
そして、この申立ての審理では、兄から非常に長文の陳述書が繰り返し提出されるなどし、兄は、なぜか、依頼者が母親と面会することを頑なに拒み続けました。
前述のとおり、母親が所有する自宅の土地建物が兄に生前贈与されていたため、依頼者は、兄が母親との面会を頑なに拒否する理由は、そのことにあるのではないかと疑っていました。
また、おそらく、兄は、母親に、自分に有利な遺言書を書かせているのではないかと疑心暗鬼になってしまっていました。
こうした激しい感情的な対立から、裁判所における審尋期日でも、依頼者と兄が激しい言い争いになるなど、対立はエスカレートするばかりでした。
裁判官のとりなしもあり「試行面会」をすることに…
こうした状況の中、裁判官から、時間を区切って、双方の代理人弁護士も立ち会うなど、様々な条件をつけるなどしたうえで、依頼者の自宅で「試行面会」をしてみてはどうかとの提案がありました。
当初、兄は、試行面会ですら頑なに拒否していましたが、当方からの粘り強い主張と裁判官からのとりなしもあり、ようやく兄も渋々ながら面会に同意しました。
こうして、試行面会は二度にわたり行われ、私も二回とも同席しました。二度の試行面会の様子は録音・録画され、いずれも15分程度の短時間でしたが、特に問題なく実施されました。
ようやく和解成立へ
この案件の前に、同じような「囲い込み」の事案で、横浜地裁が面会妨害禁止の仮処分命令を出していたため、私は、裁判所に対し、この裁判例を引き合いに出し、仮処分命令を出してもらうよう主張しました。
しかし、裁判官は基本的に前例踏襲主義なのですが、本件の担当裁判官も、やはり、この横浜地裁の件以外に前例がないこともあり、仮処分命令を出すことには慎重な姿勢でした。
そこで私は依頼者と協議し、こちらから相手方に対し、和解案を提案することにしました。
すると、相手方は、和解に応じる場合の条件を提示してきました。それは、依頼者が母親と面会する際の条件として、約30項目にも及ぶ禁止事項の提示でした。これらの条件を受け入れなければ、和解には応じられないという相変わらずの強硬姿勢でした。
私は、重箱の隅をつつくような微に入り細を穿つ内容に辟易しながらも、依頼者が母親と面会するためという一念で気を取り直し、面会時の禁止事項を大幅に簡略化して整理し、相手方と何度も調整しました。
その結果、ようやく一定の条件のもとで、依頼者が母親と面会をすることを認める内容の和解の成立に漕ぎ着けることができました。
「囲い込み」の問題に正解はない…やった者勝ちにしないためには?
このように、近時、囲い込みの問題が増えてきていますが、これに対する有効な解決策は限られます。
後見人選任の申立てをする場合には、囲い込んだ親族の協力が得られないと、後見人選任の審判を出す要件である医師の診断書の提出が困難になります。
そこで、囲い込んだ親族が反対しても、必要性が認められれば、裁判所が、本人が入居している病院や施設に対する調査嘱託の申立てを積極的に活用するなどの運用の改善が必要と考えています。
また、親族が面会を妨害する場合には、裁判所が、積極的に面会妨害禁止の仮処分命令を出すなどの運用の改善も必要でしょう。
いずれにしても、「囲い込み」の問題に正解はないのが現状です。そして、「囲い込み」の問題は、多くの場合、その後の遺産をめぐる紛争の前哨戦でもあるのです。
以上のような「囲い込み」の問題をはじめ、親族間トラブルでお困りの際には、お気軽に当事務所までご相談いただければと思います。
囲い込み案件(仮処分の申立て)
着手金:33万円(税込)~
報酬金:申立てが認容された場合又は和解成立により解決した場合 66万円(税込)
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この記事の執筆者
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専門分野:相続、不動産、企業法務
経歴:埼玉県立熊谷高校から早稲田大学法学部に進学。卒業後、平成16年に弁護士登録。平成21年に地元である埼玉に弁護士会の登録替え。平成26年10月より、最高裁判所よりさいたま家庭裁判所の家事調停官(いわゆる非常勤裁判官)に任命され、4年間にわたり、週に1日、さいたま家庭裁判所に家事調停官として勤務し、数多くの相続事件を担当。平成30年5月に武蔵野経営法律事務所を開業し、現在に至る。
家事調停官の経験を活かし、相続事件の依頼者にとって最適な解決に導くサポートを実施している。
家事調停官時代の件数を含めて、相続事件の解決実績は500件以上に上り、地域内でも有数の実績である。
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